
新風 夢を拓く
平成13年4月から16年3月までの3年間、九段高校の校長を務められた佐藤美穂先生から原稿をお寄せいただきました。着任後間もなく千代田区への移譲問題が浮上し、先生は各方面との折衝や調整に奔走され、激務の3年間でした。本当にご苦労さまでした。
緑輝く季節から梅雨に濡れた紫陽花の彩り豊かに映える頃へと、いつの間にか時が移ろい過ぎていきます。過ぎゆく日々の中では、九段高校の3年の歳月さえ恰も瞬時のように感じられるのも、時間というものの持つ不思議さでありましょう。私儀、去る3月末日をもちまして定年により退職いたしました。
菊友会の皆様方には一方ならぬご協力を賜りまして深く感謝申し上げます。在任中、折に触れ、各界にご活躍中の諸先輩方から有形無形にご厚情と叡智をお寄せ頂きましたことに、改めて御礼申し上げます。
教職生活38年間の最後の学校として九段高校に参りましたが、折しも伝統校の新たな展開の時期に遭遇し、なかなか激しい日々の連続ではありました。しかし振り返ってみますと、3年前の子供たちとの最初の出会いは着任前、3月末の吹奏楽部定期演奏会、奇しくも15年度の演奏会は離任直後の4月開催となり、部員たちの活力溢れるハーモニーを楽しみ見届けて校長職としての締めくくりとなったことに、人の世の平仄のようなものを感じた次第です。
九段を去るに当たり、新しいニュースを一つお伝えして退任のご挨拶に代えたいと存じます。昨年の12月に、学校行事・健康教育週間(平成14年度都教育委員会表彰受賞)の取材が契機となり、日本テレビ放送網兜道局から新たな取材の相談がありました。教育番組では定評があるといわれているドキュメンタリー番組で、当初は夏の至大荘行事を取材したいとのことでしたが、学校としては広い視野から九段の精神を伝えてほしいと願い、協議を重ねた結果、報道局による提案企画(要旨)は次のようになりました。
東京の真ん中にある都立高校。毎年夏、1年生が全員参加で遠泳行事を行う。昭和の初めから続く伝統の遠泳行事「至大荘」。様々な不安を抱えて歩み出す新1年生たちが、夏の海の行事を体験し変わり行く姿を、春からの取材で描いていく。
(1)遠泳行事(至大荘)の取材を通して、この行事が人間教育の場であることを伝え、学校教育について考えるきっかけを提供する。
(2)高校1年生の前期、生徒たちには様々な不安がある。「至大荘」がそうした問題解決のヒントを提供していると考え、学校教育のもつ可能性と魅力を伝えたい。
取材対象が新1年生であることから、推薦入試合格発表日の1月末から取材を許可しました。
伝統は現在に生きてこそ意味があり、未来に生きてこそ真の価値を継承することができる、これは九段に着任して以来、私の信条でありました。本校を目指す中学生や保護者に伝え続けた言葉「新風 夢を拓く」は、私の強い希いとしてのメッセージでした。
ともあれ、伝統校こそ常に新しい風を入れることが肝要であり、同時に常に現場から広く社会に発信していくことも教育の大切な機能であります。
今回の企画はそうした学校の役割としての良い機会となるものと判断しスタートしたのですが、退職を控えた立場として、教職員の協力体制は言うまでもなく保護者の方々のご理解と、何よりも子供たちの人権に配慮する十分な体制づくりに意を尽くしつつ、次の方に引き継ぎました。順調に推移すれば8月末か9月に放映される予定です。
至大荘・・・この響きには、世代を超えて想いを一つにする魅惑的な力が秘められているようです。番組づくりを通じて、菊友会の皆さまと在校生たちとの良き出会いがあることを、出会いが良き交流へと発展することを、願ってやみません。