
伝統引き継ぎ新たな歴史へ〜学校と同窓会、協力関係の強化を確認
菊友会の高野会長と九段高校の齋藤新校長は4月27日、九段会館で対談した。この席では千代田区立の中高一貫校開設準備への対応、伝統の継承方法など当面の問題についてざっくばらんに意見を交換、往年の名物教師の思い出や九段出身の幅広い人材についても話が及び、伝統・校風を新校に引き継ぐために同窓会と学校との協力関係をいっそう深めることを確認した。 対談には九段高校の五石副校長、菊友会の宮島副会長(高7)、尾羽澤理事長(高9)、岡田副理事長(高10)、坂上理事(高10)、鍛冶顧問(高4)が同席した。
伝統引き継ぎ新たな歴史へ〜学校と同窓会、協力関係の強化を確認
高野会長
まずは九段高校の校長ご就任、おめでとうございます。同時に「お帰りなさい」ですね。都立から千代田区立の中高一貫校に変わろうとしている大変な時期に、学校現場を十分にご存じの先生が着任され、同窓会として心強く思っています。中高一貫校問題は同窓会にとって寝耳に水。各方面の話を聞き、総意として都教委に都立としての存続を要望しました。学校内やPTAにも反対の声が強い状況でした。私どもも反対の立場から都教委などと話し合いましたが、千代田区での検討は平成9年頃から始まっており、都の財政難問題、都立高校の凋落、少子化などの環境もあって、これをひっくり返すのは至難であることもわかりました。そこで九段の伝統・校風を維持・発展させるという条件を担保とし、同窓会も参加して具体的な内容を詰めて来たわけです。この間、われわれだけでなく、佐藤前校長や当時のPTA役員の方々は相当ご苦労されました。しかし、残念ながら流れは変えられない。同窓会としては先輩から受け継いだ伝統を後輩に引き継ぐ義務があります。九段の名前、灯を消さないよう学校やPTAとも一緒になって母校の発展に努力して参る所存です。
曲がり角の重い使命
齋藤校長
佐藤前校長から引き継いだ資料を読み、今回の千代田区への移譲問題に関する菊友会の皆さまの活動を知りました。いろいろとありがとうございました。心から感謝申し上げます。
私の九段時代は子育ての時期と重なり、教員としてもいろいろな経験をした意義ある14年間でした。中高一貫問題を初めて新聞で見たときは青天の霹靂のようなショックでした。卒業生や同僚が集まると、いつもこの話題が出ましたが、まさか自分が重い責任を負って戻るとは夢にも思わなかったことです。菊友会のご努力で九段高校が母体校と位置づけられ、私が大好きな校歌も守ってくださった。本当にありがとうございます。先生方やPTAの新旧役員の方々にお話ししたことをあらためて申し上げます。
九段はいま歴史の曲がり角。やり方次第では後退も飛躍もあるかもしれない。この時期の校長としての使命は何か。私は2つの答えを出しました。
1つは移譲が決まったとはいえ都立九段の校長ですから、都立として募集した生徒たちに、この時期に入ったからつまらない高校生活だったと思わせない、むしろこの時期だからこのような経験もできてよかったと思わせるよう粉骨砕身努力するのでご協力を、ということ。
もう1つは、卒業生や旧職員の九段に対する思いは極めて強いものがあります。人事が新聞に出た4月1日、九段がトップに出ていました。昔の生徒や同僚からメールや電話をたくさんいただきました。区立化に反対とか賛成とかではなく、共通しているのは九段をよろしく、ということでした。都立でも区立でも九段が九段らしく、生徒が生き生きしていることが自分たちにとってはうれしいことなんだ、というのです。私の使命は九段の生徒に十分な教育を保証し、九段をよりよくして引き継ぐことだと思いました。
九段を愛していれば反対するのが人情です。愛していればこそ曲折があったのだと思います。いろいろな流れの結果、今日があるわけで、行政が決定を翻すことは絶対にない。前校長や同窓会のご苦労によって九段の名前も校歌も校章も残ることになり、至大荘などの伝統行事も引き継ぐことが文書で確約されているのです。
今後5年間の責はたいへん重いものがあります。5年間とは都立として募集した最後の生徒が卒業するまでの5年間です。この間に伝統を受け継いでいい教育がなされればいいものは絶対に引き継がれます。区立になるからといっていじけてしまったら、九段のいいものを失います。先生方もがんばっています。菊友会のお助けをいただきたいと思います。
高野会長
学校を愛すればこそ反対したというのは同窓会も同じです。九段は生徒たちや親の学校に対する満足度は非常に高い。自分で選んだ学校だから居心地もいいのかもしれない。いい学校だから今のまま残してほしい、となる。こどもが可愛いときのままでいてほしい、と思う親の気持ちでしょうね。しかし、決まった以上は伝統・校風の維持・発展に力を注ぎたいと思っています。
齋藤校長
そうですね。決まったという前提で進まないと・・・。新しい学校を大切にしないと、せっかくの伝統も生きませんからね。
「第一たれ」の教え
高野会長
最近、卒業式や入学式に出て、初代校長の成田千里先生の教育理念が受け継がれていることが分かり、たいへんうれしかった。私は昭和21年入学で、学制改革の変わり目だったので、図らずも6年間の中高一貫教育を体験しました。軍国主義の教育から民主主義教育に変わりましたが、成田校長時代の先生がたくさん残っておられ、ナリタイズムが堰を切ったように出てきたのを覚えています。
齋藤校長
成田先生の「第一たれ」とは、他人を蹴落として一番になれという意味ではなく、エリートの気構えとして程々で妥協せずに、すべてのことで第一をめざせ、という意味だと思います。成田先生はこのことを生徒に求め続け、先生方もこれを与えようと努力されました。これが九段の伝統であり、今でも続いています。どういうところかというと、すべてのことで目一杯やらせるんです。体育祭の練習でも、文化祭への取り組みでも。磨けば輝くんですね、十代の子供たちって。この校風は新校にも引き継ぎたいですね。「第一たれ」と叱咤激励することによって生徒は自分たちのことを他人任せにせず、率先してやるようになる。集団のみんながそうなったら素晴らしい学校になりますね。
高野会長
おっしゃる通りです。我々もそういう教育を受けました。出来る生徒は放っておいてもよくなる。それより落ちこぼれをどうするんだという方に先生の目が注がれていました。出来る生徒が出来ない生徒を引っ張り上げてくれました。「お前はもっと勉強しないとろくな人間になれない」とよくいわれました。
思い出深い名物教師
菊友会昔の先生は一つの学校に長くおられました。今は異動が激しい。斎藤校長の九段在籍14年間というのはかなり長い方ではないでしょうか。
高野会長
そうですね。今は6年とか8年ぐらい。
菊友会
長く在籍したり、九段卒の先生だと学校への愛着も深まるでしょうね。伝統もそうした先生によって守られて来たのだと思います。昔は名物教師がいましたが今はどうでしょうか。
齋藤校長
いますよ。長くなくても個性で名物になります。九段のかつての名物教師といえば社会科の林三郎先生。先生は私の九段着任と入れ替わりにお辞めになられましたが、毎日定時に学校にいらっしゃった。私は現任の先生には紹介されましたが、林先生には紹介されていない。不思議な人と思っていたら「お茶」といわれ「なんて図々しい人」と思ったこともありました。当時は菊友会主催で名士講演会という催しがあり、有名なOBが講演に来られました。林先生が社会科の教員室に来られ、「大先輩が講演するというのにズックの後ろを踏んでいる生徒がいる。あれは教員のあななたちの責任です」と怒られました。すぐに講堂に行き、生徒の靴を見て「かかと、かかと」と何度も言って指導した思い出があります。養護の稲葉みよの先生。世の中にはこんな先生もいるんだ、私に文才があったら小説を書くのに、と思ったものです。19歳で九段に着任されましたから「九段のことなら私は天井のシミの場所まで知っている」。言葉もなかったですね。それから英語の大川隆先生。お星様の話がとても素敵でした。湯野正憲先生については伝説が残っていました。
高野会長
よく殴られました。殴られても親にはいわなかった。家で何かあると逆に「先生にいいつける」といわれました。これが効果的でしたね。当時の先生は絶対的な存在で、親に相談できないことを先生と相談していました。
齋藤校長
他の学校のことも聞くと、九段の生徒は相対的に先生と相談することが多いようです。先生と生徒とのつながりが深いのも伝統ですね。至大荘が九段の伝統形成に果たした役割は大きいと思いますよ。
高野会長
至大荘行事は私どもが戦後の最初でした。お米を持って蒸気機関車で行きました。2年先輩や3年先輩は行っていないのに、何かあると「波どうどうと……」を歌うんです。
「人材バンク」作ったら
齋藤校長
菊友会に一つお願いがあります。「九段人材バンク」のようなものを作ってはいかがでしょうか。菊友会の会報でPRし、OBに母校のために協力できることを登録していただく。そして講演してもらったり、日常的な進路ガイダンスでもお話していただく。これだけ素晴らしい先輩がいるのですから。一流の方に触れることは生徒の刺激になります。
高野会長
人材は各分野にいます。現職の大臣もいるし、財界人、直木賞作家もいます。人材バンクは面白い。考えましょう
齋藤校長
新校にもつなげたい。人材を生徒のために活用したいという発想です。新校の先生も九段の卒業生や九段に在籍経験のある方から募るとか。伝統は言葉でつなぐのではなく、人間がつなぐのだと思います。至大荘行事も行事として続いたとしても、運営する人次第では単なる海水浴になってしまいますね。健康週間にも同窓会のご協力をあおいだと聞いています。ことしもよろしくお願いします。
菊友会
同窓会としてもお願いがあります。まず、評議員会と菊友会の大会には招待状を出しますので、ぜひ出席をお願いしたい。
齋藤校長
喜んで出席させていただきます。
菊友会
10月の校歌祭にも毎年協力していただいています。音楽部の生徒が中心になって参加していますが、現役が参加するのは九段だけで、他校はうらやましく思っています。
齋藤校長
それは生徒にとってもいいことですね。
高野会長
中高一貫校問題をきっかけにして同窓会と学校の距離が極めて縮まりました。この流れをますます発展させようではありませんか。これからもよろしくお願いします。